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2021.9.13

デライト・ベンチャーズ独自の契約条項ー株式買取条項に関する一考察

Takashi Tsujiguchi
Takashi Tsujiguchi
Partner / CFO
デライト・ベンチャーズ独自の契約条項ー株式買取条項に関する一考察

こんにちは、デライト・ベンチャーズ辻口です。シード・アーリーステージのベンチャー企業を主に対象した投資を行なっているデライト・ベンチャーズですが、ベンチャー企業への投資の際に結ぶ契約書を(特段の支障がない限り)独自に策定したものを使用しています。これは、私たち自身が「スタートアップの成功確率を最大化する」ことが今後のスタートアップエコシステムにとって重要だと考え、起業家が投資を受けやすい、そして事業に集中しやすい環境を生み出すために行なっています。

今回は、私たちが策定した雛形契約書の中でも特徴的な「株式買取条項」についてお話しできればと思います。

株式買取条項の整理

私たち投資家とベンチャー企業とが結ぶ「ベンチャー投資の契約書」においては、契約違反があった場合に備えて「契約違反時の取り扱い」について定め、特にベンチャー企業側での個別具体的な条項違反については、1ベンチャー企業そのものによる株式買取、2経営株主(創業株主)による株式買取、のいずれか又は両方を規定することが通例です。

この定め自体は、ベンチャー投資実務でごく普通に目にする項目なのですが、最近耳にする「2経営株主による株式買取を是とするか?」というのが今回の主題です。議論を進める前に、経産省の資料を元に議論を整理させてください。
(出典:平成30年3月 経済産業省 「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」)
上記、経産省が公表したモデルケースのベンチャー投資契約書をまとめると、下記のようになります。

投資家と発行会社の信頼関係が壊れるような重大な契約違反があった場合には、関係を解消するために株式買取条項を定めることがある。
・例え会社が買取に応じたとしてもその取引は「自己株式の取得」となる。日本では、会社法の財源規制の関係でその会社に十分な剰余金が無いと買い取ることができない。
上記のような場合でも関係解消を実現させられるように、経営株主による買取も定めることがある。

文章だけを見ると論理的には問題となるような箇所は見当たらないかもしれません。しかしながら経営株主の立場からも、投資家の立場からもこの意思決定は慎重に行わねばならない点が見受けられます。同じ資料内で記載されている投資家と発行会社の双方の意思決定に対する該当箇所をまとめるとおおよそ以下になります。

発行会社及び経営株主にとって金銭負担が大きいため、該当する項目を限定列挙方式にすることで、安易な行使を抑制している。
・投資家も、特にVCなど外部の資金を預かって投資している場合など、運用責任の観点から投資契約の実効性を担保する必要があり、契約違反時の具体的な義務を定める必要がある。
買取請求は、IPOやM&Aが起こらない際のExitの代替方法ではない。

基本的に「安易に行使されるものではない」という暗黙の了解はあるものの、ベンチャー企業の社内体制は未整備な部分が多く、探せば契約違反の項目が出てくる可能性はあります。投資家としても、行使するつもりは無くとも入れておく必然性がある項目ということになります。

最近、経産省の方とお話する機会がありましたが、経産省としてはこの経営株主による買取条項を何らか改善し、この項目がベンチャー投資を阻害する要因にならない案を模索されている印象を受けました。

デライト・ベンチャーズが考える代替案

そのような状況において、経営株主が買取条項に過度に神経質になること無く、かつ、投資家にとっても運用責任を果たせるように、デライト・ベンチャーズの契約書では経営株主の買取に代えて「違約罰」というのを定めています。具体的には以下の通りです。

違反があった場合に、是正の期限を定める。当該期間を経過してなお是正されなかった場合、会社に対して1株当たり別途計算される金額による買取請求を行う。
買取請求についても期限を定め、その期限内に全部の株式が買い取られなかった場合、残りの株式の評価額全額を会社が「違約罰」として直ちに投資家に支払う。
・買取対象株式の全てを買い取らなかった場合、買取対象株式は引き続き投資家が保有する。
経営株主は、買取条項の対象では無い。

この「違約罰」という形で実現したかった事項はこのようなものになります。

経営株主を買取条項の対象から外すことで、心理的負担を軽減し事業に集中してもらう。
・「違約罰」という債権にすることで、財源規制のために実現できない発行会社による株式買取と実質的に同等の効果を得て、運用責任を果たす(投資資金回収を行う

デライト・ベンチャーズがリードインベスターとなる投資ラウンドでは、上記のような項目をベンチャー企業に提案しています。無論、既存契約書との関係や、他の投資家様の意見もありますので、一概にすべての投資に反映できるとは言い切れません。また、この案が未来永劫良いと思われる選択肢では無いかもしれませんが、現時点では経営株主と投資家双方がそれぞれの責任を果たすのにはよい方法だと考えています。

私たちデライト・ベンチャーズが上記を提案する理由は「スタートアップが成功した時のリターンを最大化させる」よりも、「スタートアップの成功確率を最大化させる」ことを重視したいと考えているためです。そのためこの議論においても、「経営株主の買取条項を入れる/入れない」の二元論ではなく、投資家の立場を尊重しつつも、できるだけベンチャー起業家の心理的不安を取り除くことで事業に集中して頂ける環境に貢献し、成功確率を少しでも高めることができればと考えています。

デライト・ベンチャーズでは、投資を検討させていただく起業家の方々に対しても、投資契約についての考え方などを時間をかけてお伝えするようにしています。それは、私たちが契約の公平性や、情報の非対称性をなくすことに注力しているためです。デライト・ベンチャーズをもっと知りたくなった、一緒に働きたくなったなどお思いの方がいらしたら、ぜひ気軽にご連絡ください。

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