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2022/08/01

「信じて待ってくれる投資家がいるから前進できる」 ――難しい国際物流課題に挑む起業家と投資家のきずな

「信じて待ってくれる投資家がいるから前進できる」 ――難しい国際物流課題に挑む起業家と投資家のきずな

起業家×投資家 本音対談 Growing Startups vol.1
Shippio 代表取締役 佐藤孝徳 氏 × デライト・ベンチャーズ プリンシパル 永原健太郎

困難なことは多いけれど、起業は面白く、挑戦し甲斐があるもの――。そんな起業家の情熱や想いに触れ、投資家とともにスタートアップを振り返る「Growing Startups」。第1回目は、株式会社Shippioの佐藤孝徳代表取締役と、デライト・ベンチャーズのキャピタリスト、永原健太郎が登板します。

簡単じゃつまらない。難しい領域だからこそ面白い!

佐藤:起業を決心したのは2015年夏、前職の三井物産で中国総代表室(北京)に駐在していた頃のことでした。中国ではやる気のある若い人たちが次々と起業にチャレンジする潮流があり、自分も何かチャレンジしたい、しなければ、という気持ちがむくむと芽生えていったんです。

永原:そして、2016年に退職。帰国してサークルイン(現Shippio)の立ち上げ。思い切りがいいですね。

佐藤:当時中国の勢いを目の当たりにする一方で、日本はどっちの方向に進むのか、方向性を見失っているように見えていました。そんな時代だからこそ新しい仕組みを作るチャンスがあるはず!という意気込みもありました。北京にいた頃は、「社会をリードする会社を作ろうじゃないか」と、同僚だった土屋隆司(現COO)と焼き鳥屋でよく語っていたものです(笑)。

永原:佐藤さんを知ったのは、2017年夏に札幌で行われたB Dash Camp(スタートアップの経営者やVC(ベンチャーキャピタル)などが集まるカンファレンス)でした。私がまだ前職のDBJキャピタルに在籍していた頃のことです。ピッチコンテストに登壇された佐藤さんのプレゼンは、ものすごく可能性を感じるものでした。誰が見ても明らかに大きな市場かつ明確なペインに対し、ITを活用して効率化すると言うのは魅力的でした。

佐藤:起業するなら、総合総社を超えるぐらいに大きく(笑)、そしてグローバルな産業に携わりたいと考えていました。輸出入は日本の人々の生活には欠かせないものだから、大いにやり甲斐があると思ったんです。

永原:当時投資検討時に社内(DBJキャピタル)で話題になったのは、安定的な総合商社を辞めてまでやるのは本物だ。この起業家は何かしら実現するだろうと。まだまだ商社を辞めて起業する人も少なかったのかもしれません。

佐藤:簡単じゃつまらない、難しいから面白いんですよ!これはShippioのウェブサイトでも謳っています。どうせやるなら、一番難しいことをやらなくちゃ。

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株式会社Shippio 代表取締役 佐藤孝徳 氏

永原:ピッチコンテストでは案の定、佐藤さんが優勝。でも、優勝したから大人気で、現場にいてもなかなか声をかけられなくて……。

佐藤:僕、アフターパーティーにも出ず、優勝した10分後には会場を後にして東京に戻っちゃいましたからね。その後、互いの知人を介してようやくお話することができました。

永原:そのときの佐藤さんの印象は、「投資家を篩(ふるい)にかける起業家」。もちろん、いい意味でですよ。「自分は本気、だから、あなたも本気で投資するよね?」という意気込みをひしひしと感じたんです。私自身、ブランド重視や流行で起業するのではなく、社会を後押しするようなビジネスを本気で展開している人と歩みたいと思っていたから、あの出会いは今でもよく覚えています。

佐藤:僕も、永原さんは面白いキャピタリストだなあと思いました。見た目はとても穏やかだけど、内に秘めた熱いものがあるなと。実際に、説得する力がありますよね。永原さんはなぜ投資家に?

永原:子どもや孫の世代がより幸せに生きられる世界をイメージした結果です。起業して社長になったとして、人生で手掛けられる事業はどれぐらいあるのかな?と考えたときにどんなにうまくいっても数社しか手掛けられないかなと。しかし、起業家を応援する投資家になれば、たくさんの社会的意義ある会社に携われる。だから、投資家となった今は、目先のお金ではなく、価値ある未来を構築していける起業家と出会い、ともに未来を作って行ければ良いなと思っています。

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株式会社デライト・ベンチャーズ プリンシパル 永原健太郎

前進できたのは、信じて待ってくれている投資家がいたから

永原:創業後は、いろんな壁がありましたよね?

佐藤:数えきれないほどあります。なかでもハードだったのは、「貨物利用運送事業者法」に基づくフォワーダー(※)の免許取得です。海外のどの国にもBtoBで貨物を運ぶには物流事業者としての責任と遂行能力が必要で、新興のIT企業にはなかなか免許が下りませんでした。関係省庁側もあまり前例がないことなので、一つ一つ丁寧に確認をしながら進めていきました。

永原:「半年後には免許とれます」と言ってから1年かかりましたもんね。

佐藤:免許を取るためには、物流業界の方の推薦状も必要ですが、社員わずか5人の駆け出し企業の後ろ盾になってもらうのは至難の業。駆けずり回り、ようやく老舗大手の社長にプレゼンする機会を得ました。すると、「君たちは将来、競合になるかもしれない。でも、物流業界に若い人たちが入るのは面白いじゃないか」と相談にのってくれ、前に進むことができたんです。「意思を周囲に話していると、いつか誰かが分かってくれる」という、弊社の最初の成功体験でした。

永原:大変だけど、なんとかするだろうと言う安心感は不思議とありましたね。

佐藤:長かったです。でも、その間、永原さんはずっと待ってくれていた。これはすごいこと。先行事例がないなか、会社を説得し、信じて待ってくれる投資家に巡り合えたのは奇跡だと思っています。

永原:歴史ある業界に何十年ぶりかで新規参入、しかもIT企業がリアルなオペレーションを持つというのは理解してもらうのも本当に大変なことだと思います。ただ、佐藤さんはじめShippioは、しっかりステップを踏んでやっていたので心配はありませんでした。取得できるまで待つしかないけど、絶対なんとかするだろうと。

※荷主に代わり、貨物の輸出入に伴う、さまざまな貿易関連業務を担う事業者のこと

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戦友として、友として、20年後を夢見ながら

佐藤: 永原さんとは、本当にいろいろお話をしましたよね。会社が成長していくなかで、評価の体制や報酬、意思決定のプロセスにおいて、困難にぶつかるたびに相談させてもらいました。

永原:佐藤さんの場合、株主だから相談しやすい事はありますか?

佐藤:メンバーに相談できない内容はもちろん、心身のコンディションなど、ときには株主の方が相談しやすいこともあるんですよ。

永原:たしかに、起業家の方の話を聞いていると、頑張っているからこそ壁にぶつかっているなあと感じることがあります。そんなときは、課題の整理をお手伝いしたり、ほかのスタートアップの例などを参考にするなど、俯瞰しながらお話をしています。

佐藤:僕が永原さんの言葉で一番覚えているのは、前職のDBJキャピタルを退職されるときの当社経営会議での言葉。普通は「転職するので後任に引き継ぎます」で済ませるところを、「次のファンドでも必ずここに帰ってきます。絶対に応援したいんです。たとえ出資できなくても、必ず、何かしらの形でサポートします」と言ってくださった。あの一言は心に染みたなあ。

永原:そんなこともありましたね。実はデライト・ベンチャーズの入社面談で永原が胸を張って推薦できる起業家は誰か?と南場に聞かれたときに真っ先に佐藤さんの名前を出したんですよ。佐藤さんとは本当に色々話してますけど、起業家と投資家でありながら友人的な側面もありつつ、お互いに10年後、20年後に後悔したくない、お互い笑って語り合いたいっていう思いはあると思っていて。立場は違えど現状に満足することなく挑戦し続けている関係が個人的には好きですね。

佐藤:嬉しいです。そういう意味では、起業家とVCの関係は、地下アイドルと“推し(ファン)”の関係に似ていませんか?(笑)。ライブ会場に5人ぐらいしか入らないときから、最前列でペンライトを振って応援してくれて、いつか夢の武道館コンサートや海外進出を目指す関係性。これは、数人規模のスタートアップから応援してシリーズB、Cと一緒に歩んでいくのと似ています。ステージに立って夢を実現していくのは僕らの役目、先頭でペンライトを振って応援してくれるのがVCの役目。

永原:キャピタリストにもいろいろな関わり方がありますが、たしかに、佐藤さんは私の“推し”ですね(笑)。でも、そこにはちゃんと理由があります。佐藤さんは常に試行錯誤しているし、壁にもよくぶつかっている。それに、家庭も守りつつ仕事も全力でこなしている姿を見ていると、同じく子をもつ親として、自分も頑張らなくちゃと思うし、佐藤さんが困っていたら支えなくちゃと思うんです。

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佐藤:そこはお互い、対一人の友人、といった感じですね。もちろん、経営会議とか取締役会では、株主と経営を任される立場として話をしますが。

永原:友人としての信頼を築きつつ、互いにしっかりとやることやって前に進み、オフサイトで「こう考えているけど、どう思う?」と話すことはありますね。私の場合、アドバイスというよりも、一緒に壁打ちしている、といったほうが正しいかな。

佐藤:誰も着手していないことを見つけてトライするのがスタートアップ企業。お互い壁打ちしながら、「どっちがいいんだろう?」って話せる健全な関係は、理想的です。

永原:そうですね。私も要所要所で相談してもらって、一緒に解決したいと常に思っています。ところで、起業家の立場から、投資家にお願いしたいことはありますか?

佐藤:3つあります。1つめは、ハードシングスやハードルにぶつかったときに起業家を叩き潰さないで欲しいこと、一緒に建設的な解決を悩んで欲しい、考えて欲しい。その点、デライト・ベンチャーズの南場さんなど起業経験がある投資家は、まずは応援しよう、大丈夫だよと励ましてくださり、有難いなと思っています。ご自身たちが難しい挑戦や数々の壁を乗り越えて来たからこそだと感じます。

2つめは、事業を運営するうえで、ガバナンスや事業計画へのアドバイス。3つ目は、経営者同士、経営者と別株主の間に入る調整役。投資家もそれぞれに、得意な役割がありますが、永原さんはいいバランスを保って、起業家をサポートしてらっしゃいますよね。

永原:ビジネスそのものだけではなく、その事業をしている人が好きなんです。「永原さんは本当に起業家のことが好きですよね」とは、よく言われます。

佐藤:永原さんは戦友であり、友人。これからもこの関係を続けていきたいな。今は大変だけど、将来の酒飲み話を作りましょうよ。

永原:そうですね。20年後もこうして笑っていたいですね。

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<プロフィール>
●株式会社Shippio 代表取締役 佐藤孝徳 氏
1983年生まれ。新卒で三井物産に入社。原油マーケティング・トレーディング業務、企業投資部でスタートアップ投資業務などを経て、中国総代表室(北京)で中国戦略全般の企画・推進に携わる。2016年6月、国際物流のスタートアップ「株式会社Shippio(旧サークルイン)」を創業。国際物流領域のデジタル化を推進、業界のアップデートを手がけている。

●株式会社デライト・ベンチャーズ プリンシパル 永原健太郎
1981年生まれ。新卒でサイバーエージェントに入社。投資部門にてベンチャー投資、SEO部門において営業及びコンサル、メディア事業(Ameba)のマーケ部署にてメディア分析や戦略設計、マネジメントに従事。2017年、日本政策投資銀行の投資会社DBJキャピタルにてベンチャー投資を再開。2019年デライト・ベンチャーズの立ち上げから参画。ベンチャー投資の責任者を務める。

取材・文:芹澤 和美(Kazumi Serizawa)
編集:杜多 真衣(Mai Toda)
撮影: 織田 桂子(Keiko Oda)