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Interviews

2025.4.29

Optimize Distributor Sales with “Partner Marketing” and Aim for Category King

「パートナーマーケティング」で代理店販売を最適化し、カテゴリーキングを目指す

パートナープロップ 井上拓海氏 × デライト・ベンチャーズ 坂田卓也

2023年5月創業のパートナープロップは、販売代理店などを通じたパートナービジネスを最適化する、PRM(パートナー・リレーションシップ・マネジメント)クラウド「PartnerProp」を開発・提供。プロダクトを通じて、パートナーの活動状況を可視化しながらフォローアップし、受注につなげる仕組み「パートナーマーケティング」の実現を図っています。

自身の体験を通じて感じたパートナービジネスの課題解決に向け、強い思いと圧倒的な行動量で取り組む、同社代表取締役の井上拓海氏。その井上氏と、デライト・ベンチャーズ パートナーの坂田卓也が、創業の背景や起業時のエピソード、今後の展望などについて語ります。

リクルートで経験したパートナービジネスの課題

──パートナープロップ創業のきっかけを教えてください。

井上:僕は大学時代、スタートアップにインターンとして参画していました。会社は軌道に乗って成長していて、僕も新規事業開発を担当するようになったのですが、自分自身の実力不足を感じ、大学卒業後はリクルートに入社しました。

リクルートでは「Airペイ」「Airレジ」などのSaaS事業部で、パートナービジネスの企画戦略を担当しましたが、非常にチャネルの構造が難しかったんですね。「これは解決すべき、いい課題だ」と思いました。その後、プロダクトマネジャーも経験し、業界課題を理解していたこと、それに対応するチャンスがあったことがきっかけで、創業を決意。実は僕がリクルートを辞めたのは、資金調達完了の約1カ月後でした。
株式会社パートナープロップ 代表取締役 井上拓海氏

パートナービジネスの課題解決に対する高い解像度が投資につながる

──デライト・ベンチャーズは、パートナープロップにシード、シリーズAラウンドともに出資しています。坂田さんとしては、どのような判断があったんでしょうか。

坂田:通常なら、投資契約における払込の条件に、前職の退社を入れなければ、といったことを迷うはずなのですが、井上さんに対しては全くそうした迷いがありませんでした。「この人はやり遂げるだろう」と感じさせる魅力があり、リクルート在籍中であることは、さほど問題ではなかったのです。

それは井上さんが、シード期のスタートアップの起業家としては非常に完成度が高かったからです。私たちは、経営者の能力を実際のアクションと会話の中からつかんでいきます。中でもプロダクトは一番の成果です。井上さんが語るパートナープロップの仮説や戦略にも、実際に見せていただいたプロダクトにも、私は強く共感しました。

さらに、それを井上さんがリクルートに勤めながら、作り上げていたことにも驚きました。起業家としての強い意思と行動力が、既にあったのです。これらがそろっているシードラウンドの起業家には、私たちもそうそう巡り会えるものではありません。
デライト・ベンチャーズ パートナー 坂田卓也
──井上さんから見た、坂田さんの印象はいかがでしたか。

井上:ありがたかったのは、坂田さんのパートナービジネス、代理店といった領域の業界理解が非常に高かったことです。課題としては深く大きいですが、パートナービジネス、代理店ビジネスといった領域のドメイン課題って、なかなか理解されづらい。そこの理解が、過去に代理店としての経験も、代理店とビジネスをする経験もあった坂田さんは、早かったんです。

しかも、シードでもシリーズAでも、約3週間ぐらいで投資の意思決定をしていただけました。そのことは「次へどんどん行こう」という僕たちの事業のスピードにも直結しています。

坂田:私からすれば、「過去に、こうやればうまくいったのか」というのが、井上さんの話を聞いた最初の印象です。自分自身が認識していなかった課題解決の解像度が、急に明確になった感じでした。

デューデリジェンス(投資対象となる企業や事業についての調査・評価)の際、代理店ビジネスに長けた企業の責任者にヒアリングしたところ、すぐにパートナープロップのプロダクトが採用されたこともありました。それほど顧客のニーズにマッチしたプロダクトを提供している。それは投資判断のスピードも速くなりますよね。

また、続くシリーズAラウンドでは圧倒的なトラクション(実績や成長の兆し)が既にできていて、その課題解決力が証明されたかたちとなっていました。私たちが判断を早くする努力をしたというより、その早さは井上さんとパートナープロップの皆さんの力によるものだと思います。

ドメイン知識をもとに「ツール」ではなく「仕組み」を売る

──パートナープロップで今、注力していることは何でしょうか。

井上:僕たちは「パートナーマーケティング」という概念とツールをセットにすることで、パートナービジネスの成果を最大化するベストプラクティスを作り、市場での存在感を確立させたいと考えています。

例えば、世界中で利用されるCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)プラットフォームの「Salesforce」は、言わば「顧客情報を入力して可視化するツール」です。ただ、そこに「The Model」という営業分業の概念を付け加えることによって、ツールをプロダクトに昇華させています。僕たちも「パートナードリブンマーケティング」という概念と、ツールをセットにすることで、パートナーマーケティングの効果が現れるように普及していき、市場での位置づけを確立させようとしています。

──パートナープロップの競争優位性はどこにあると思いますか。

井上:おそらくゼロからグロースまで、パートナービジネスをやり切った起業家は、あまりいないはずです。僕は前職でたまたま機会を得て、メーカー側の立場で、立ち上げからグロースまで、パートナービジネスで非常に苦戦しながら仕組みで解決する経験をしました。その経験をもとに、ドメインマスターとして、メーカーがパートナービジネスの課題をどう解決していけばいいのかを考えて、それが結果としてプロダクトになっている点が強みだと思います。

どのメーカーのものを売ってもよいパートナーに、いかに自社のために動いてもらう仕組みをつくれるかが、メーカーの課題です。間違えてはいけないのは、パートナーに使ってもらえるプロダクトにしようとすると、使いやすいユーザビリティーなどの話に収束してしまうということ。それでは、課題とのミスマッチが生じます。

僕らはツールではなく、パートナー経由の売り上げを上げるための仕組みを売っている。「データを可視化して管理するツール」ではなく、SalesforceのThe Modelのように、可視化したデータをもとに、企業間を超えた組織をどう動かすか、そのための仕組みをつくっています。その部分が評価され、導入いただけているということは、そこが競合優位性につながっているのではと思います。

次の成長ステージを見据えて組織づくりで意識していること

──創業後にぶつかった壁はありますか。

井上:壁にぶつかる暇がなかった気がします。常にプロダクトを作り続けて、少しずつ課題を乗り越え続けているので、大きな壁にどーんとぶつかるということが、今はまだありません。将来的にはもちろん、壁も出てくるとおもいますが、目の前にある課題を毎週解決する、その繰り返しを続けている感じです。

──今後考えられる課題とは。

井上:事業に対する解像度は高いという自信がありますが、やはり組織づくりや採用は今までに経験がない部分ですので、今後どれだけ強くしていけばよいのか、いずれ自分自身の課題となるのではないかと思います。

坂田:私が近くで見ていて思うのは、今パートナープロップは、井上さんの圧倒的な熱量とプロダクトの解像度で、ワーッと進んでいるということ。会社に泊まり込んで仕事を進める熱量があるからこそ、圧倒的な成長が実現できていることは間違いないでしょう。ただ今後、組織が拡大するにつれて、さまざまな価値観のメンバーが増えれば、転換点は来るはずです。

組織課題に対しては、私たちも「こういうケースがあったよ」と情報を提供することはできます。ただマーケティングやセールスの課題と比べると、組織課題は個社ごとに異なり、解決方法もそれぞれにあって共通化しにくい。

転換点に現れる壁を、骨太な起業家でありながら共感力もあり、セールスも上手な井上さんがどう乗り越えていくかは、私も非常に楽しみにしている部分です。

井上:その観点で、ちょうど始めていることがあります。組織が50名、100名を超えてくると、求心力の鍵となるのが部門ごとのスローガンです。例えばSalesforceなら「セールスを極めるために入りたい」とか、メルカリなら「エンジニアとして経験が積みたい」といった、部門に対する評価が入社動機のひとつとなります。これは、部門のスローガンの力によるものが大きい。

現在、責任者クラスの人を採用していますが、今後入ってくる部門のメンバーに対してリーダーシップを発揮してもらい、部署ごとの面白さを掲げることで、求心力が生まれて壊れにくい組織を作っていきたい。1,000人規模の組織になれば、経営方針が分からないという人も入ってくるようになるでしょう。でも部署単位で目指していることは、自分ごととしてつなげていけます。その集合体として意思の連鎖がつながって、崩れないような組織にすることを考えています。

起業家としてありがたいのは事業視点での話ができるVC

──デライト・ベンチャーズとの関わりで良い点はどんなところですか。

井上:自分が普段会えない人から情報を得られることです。一番分かりやすいのは、南場さん。身近ではなかなか会えないような、メガベンチャーを作った方と話すことで、自分とのギャップが量れ、自分に足りていないところが明らかになります。

先日も、ほかの起業家も参加して、南場さんとピザを食べながら話す交流会があったのですが、南場さんが入ってくると周りの空気が変わるんです。程よい緊張感と「やらなくちゃ」という元気のようなものを南場さんがみんなに与えていて、「これは全く自分にはできていないことだな」と感じました。そうしたギャップを見る機会を得て、情報量を増やすことは、個人ではできない取り組みだと思うので、起業家として成長できるうれしい機会だと思っています。

井上:それから坂田さんが、起業家側の視点で話してくださることもありがたいです。ファンドリターンやリスク対応の話題ではなく、事業をどう進めていくか、そのためにどれくらいの資金が必要か、今後どう成長させていくかといった、事業の目線で語っていただける。これは、意外とVCファンドの中でも少ないことなんです。事業会社としてどうすればいいのかを常に一緒に考え、事業を進めていけることが、やはり一番いいことです。

また、シードラウンドの起業家は情報が少なく、まず「VCって何」「投資って何」というところから始まることが多いと思います。どのVCが信頼できるのか、どの投資家を選べばいいのかは、検索しても分かりません。そのときに大事なのは、ファンドのサイズなどよりも、やはり担当者。長いお付き合いになるわけですから、事業の話を第一に考えてくださる担当者はありがたいです。

グローバル展開は後に続く日本企業の海外進出に貢献するため

──海外進出も視野に入れているということですが、今後のチャレンジと目指す方向について教えてください。

井上:僕らの世代って、勝っている日本を見たことがないんです。物心がついた頃にはGAFAがいて、Salesforceが来て、さらに日本の衰退しか見ていない。ただ、SaaS領域では取り残された、PRMという最後の市場がある。そこを取ってカテゴリーキングとなり、世界トップを取っていくことを考えています。

僕らがグローバルに出ていく理由は、明確です。日本からグローバルにチャレンジした企業は、言語の壁や拠点の位置といった問題もあり、失敗するケースが多い。日本企業が海外に進出するときには、その地でパートナーを開拓することになります。僕らがグローバル展開することによって、日本企業が海外に出るときに僕らのサービスを使って海外パートナーを開拓し、グロースしていけるエンジンとなりたいと個人的には考えています。

最近、南場さん、坂田さんからはグローバル投資家とディスカッションする機会もいただきました。早いタイミングで「どういう情報が必要か」と先んじて手を打ってくださるのは、デライト・ベンチャーズのすごくいいところ。単にアドバイスをいただけるだけでなく、ディスカッションの土台として情報を先にいただいて、その上でディスカッションするステップがあることにも、面白みを感じています。

坂田:そこは起業家をリスペクトした上で、私たちが事業化を支援したいということ。私たちはあくまで起業家の黒子です。事業の実現を最大限支援したいというのが、私も、ほかのメンバーも考えていることだと思います。

私が投資するときに決めていることが2つあります。1つは、投資先が自分が転職してもいいと思えるところであること。もう1つは、転職したその先で、自分のボスがその起業家ならいいなと思えることです。となれば、ボスと一緒に働くことは、当たり前ですよね。

井上さんとパートナープロップは、あっという間に成長されているので、私たちも成長していかなければなりません。リサーチや価値向上に取り組むときにも、生成AIなどにはないリアリティを持って、その解像度を上げることが大事だと考えています。今、井上さんに言っていただいたような評価をさらに積み上げられるように、汗をかいていくしかないですね。

Profile

Profile:

●株式会社パートナープロップ 代表取締役 井上拓海氏
リクルートにて、SaaS事業「Airシリーズ」のアライアンス戦略を設計・推進。月間受注数を約1000倍以上成長させ、キャッシュレス業界におけるシェア拡大に貢献。その後、新規事業のプロダクトマネージャーを経て、パートナープロップを創業。「共創を、社会のエンジンに。」をミッションに掲げ、パートナーマーケティングを実現するPRM(プロダクト・リレーションシップ・マネジメント)ツール「PartnerProp」を開発・提供。シードラウンドから半年で累計9億円のシリーズA資金調達を完了。
https://partner-prop.com/
●デライト・ベンチャーズ パートナー 坂田卓也
2005年に凸版印刷へ入社し、出版、広告、玩具、ゲーム、駐車場・カーシェアリング、コミュニケーションプラットフォームなどの業界のマーケティング・新規事業支援に携わる。2014年4月より、経営企画に異動し、経営戦略部に所属。2016年より、CVCを立ち上げ、新事業創出を目的としたベンチャー投資およびM&A業務に従事。投資先スタートアップ25社とともに事業開発に従事し、複数社社外取締役を務める。2019年国内CVC部門の責任者を務め、2022年11月より、ベンチャーキャピタルのデライト・ベンチャーズに入社し、日本発のグローバルトップ企業の投資育成事業に尽力。2016年グロービスMBAを卒業し、現在は、グロービスMBAの講師(ベンチャー戦略・経営戦略・マーケティング等)を務める。

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