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インタビュー・対談

2023.8.22

世界規模のスタートアップ輩出を目指して、起業家がチャレンジしやすい環境をつくる

世界規模のスタートアップ輩出を目指して、起業家がチャレンジしやすい環境をつくる

デライト2号ファンド設立 マネージングパートナー鼎談(ていだん):南場智子 × 渡辺大 × 浅子信太郎

デライト・ベンチャーズは、デライト2号ファンド(ファンド名称:デライト・ベンチャーズ2号投資事業有限責任組合)を設立し、150億円規模でファーストクローズしたことを2023年7月5日に発表しました。ディー・エヌ・エー(DeNA)のほか、機関投資家や金融機関、事業会社からの出資も得たデライト2号ファンド。マネージングパートナーの南場智子、渡辺大、浅子信太郎の3人が、背景にある課題やファンド設立の目的、スタートアップへの出資で目指すことなど、その思いを語ります。

独立系VCとして、パフォーマンスの最大化を目指す

南場:2019年、キャピタリストとしてルーキーの私たちが集まって100億円で1号ファンドを立ち上げました。それは、DeNAに競合する事業でもいいから、日本のスタートアップエコシステム活性化を目指し、ちゃんとリターンを上げる本格的なVC(ベンチャーキャピタル)をやりたかったからです。

こうした背景があったので、デライト・ベンチャーズは、DeNAのリソースを活用しつつも独立性をもった意思決定を徹底してきました。ただ、そうは言っても「DeNAのCVC(コーポレートVC)なのではないか」と見られることも多かった。そこで今回の2号ファンドでは、他社にも出資をいただき、名実ともに独立系のVCとして純粋なファイナンシャルリターンを目指します。

もちろん、リターンという意味では成果を語るのはまだ早すぎるけれども、1号ファンドで運営のノウハウを手に入れ、体制もしっかり整えてきた。こうして複数の投資家に出資いただくことができました。

デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 南場智子

渡辺:世界的には昨年から上場株価が落ちていますよね。2021年まで海外では各社がVCへの投資配分を増やし、ある意味バブルのような様相を呈していましたが、2022年からはVCへの資金流入も減っています。

一方日本では、これまではVCへの投資配分が欧米などの海外に比べてとても少なかった。それが今、政府の「スタートアップ育成5か年計画」などの後押しもあって、スタートアップエコシステムへの期待が高まっているところです。

デライト・ベンチャーズからも大企業や政府へスタートアップエコシステムを変えなければという問題意識を提言し、業界の課題感も盛り上がりつつあります。私たちの戦略や投資方針が今、このタイミングでVCへの投資配分を増やそうとしている日本の投資家の方々の期待とも合致したのは嬉しいですね。

デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 渡辺大

浅子:(渡辺)大さんの記事(『日本の“早すぎる上場”はスタートアップエコシステム全体にとっての損失(後編)』)にもあるように、今までは日本のVCからは高いリターンがなかなか出なかった。そのため「VC投資を強化したくてもできていなかった」という機関投資家も結構いました。

私たちはユニコーンやデカコーンの創出を目標に掲げています。大きなホームランを狙っていくという思想に共感を得て、機関投資家からも投資をいただけたのは、今回の2号ファンドで特筆すべき点かもしれません。

渡辺:実際日本では、ゼロから起業して成功させた起業家が立ち上げたファンドは少ないですよね。

南場:私たちの投資方針を、投資家の皆さんに信頼していただけた背景には、その事実があると思います。それから私たちが持っているDeNA社員やアルムナイ(OB、OG)を中心とした人的なネットワークも、デライト・ベンチャーズの強み。こうしたネットワークを活かして、スタートアップエコシステムに貢献していきます。

世界で大勝ちをする可能性のあるビジネスを追い求める

渡辺:デライト2号ファンドでは、世界規模でインパクトを出せる日本発の技術など、大きな課題を解決するビジネスに力を入れて投資していきたいですね。スタートアップエコシステムの役割は、GoogleやAmazon、SpaceXといった、産業構造を変えるような世界規模のビジネスを生むこと。私たちは、1,000億円以上の課題解決ができるビジネスを重視しています。詳細は後ほどご紹介しますが、出資時には、起業家がアーリーステージのうちにリスクを取って大胆にチャレンジできるようなサポートをしていきます。

また、上場はスタートアップにとってはあくまで資金調達の手段の1つです。1号ファンドでもそうでしたが、私たちは、スタートアップが未上場のうちに、事業を長期的に成長させるために必要な投資を行うことを重視しています。

南場:世界で大勝ちをする可能性のあるビジネスを、しっかり応援していきたいですね。「間違いなく2〜3倍にはなるだろう」というところではなく、失敗するかもしれないけど成功したら大きい、ものすごくうまくいったら“兆円規模”になる可能性を持つところに投資したい。そのために、ファンドのうち15%ぐらいは、成果が出るまでに時間のかかるディープテックにも投資していきたいと考えています。

浅子:私たちの強みは、実際に海外で事業をやったことがあるマネージングパートナーがいて、起業家としてユニコーン企業をつくったという経験をもっているところです。自分たちの失敗経験などのシェアも含め、実際に経験したからこそできる支援がある。

デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 浅子信太郎

強みを活かして起業家に寄り添い、成長を支援していく

南場:私ができるのは、自分の起業家としての経験を振り返りながら、会社を成長させるときにどんな課題が出てくるか、それにどう対処したか、といった、事例のシェアです。とにかく失敗も多い起業家だったので、全ての落とし穴にはまって、いろんな人の助けを借りながら、1つ1つクリアしてきたんだよね。そういう意味では一通りの経験を一人称で持っています。

自分の能力や考えと、会社を大きくするために必要なスキルセットのギャップに対する葛藤など、起業家としての悩みに私自身も向き合ってきました。特に苦しいときこそ、起業家にしっかり寄り添っていきたいですね。
そして、それぞれの人が自分の可能性に気づいて、大きな夢に向かって挑戦するのを応援するのが、やっぱり大好きなんだよね。

渡辺:僕は中国や米国でチームをゼロから作った経験があるので、新しい国でチームを作る際の知見などを提供することもできます。また米国では300人ぐらいのチームを管掌していたので、海外での採用や組織運営といった人事的な経験もシェアできますよ。

海外でのオペレーションに関しては、僕も失敗経験が多数あります。次の世代のスタートアップには、海外進出で陥りがちな失敗を伝えて、世界基準の事業の海外進出を支援したいですね。

浅子:僕の場合、ベンチャー企業のCFOとして日米の上場を手がけた経験があるので、シリーズB以降になったとき、どのように上場に向けて準備すべきかについてもお話しできると思います。

スタートアップのCFOにとって、資金繰りや資金調達はものすごく重要。未上場ではもちろん、上場してからも、投資家とどう対峙していくべきか、苦労を含めいろいろと経験してきたので、こうした実体験に基づいた学びを起業家に共有できると思います。

起業家がチャレンジしやすい環境作りが大きな事業成長に繋がる

渡辺:今の米国では「起業家が負うファイナンスのリスクが大きすぎると大きなチャレンジをしなくなる」という考え方が、一般的になりつつある。むしろリスクを取るのは投資家側で、起業家が金銭的な落とし穴を心配することなく大きなチャレンジに踏み出せる環境を作る方が、最終的に投資家の収益も大きくなると証明されています。

日本でも、ハイリスク・ハイリターンの大きなチャレンジができる状態へと徐々に変化してきています。それがエコシステム全体で成功を目指せるかたちなのです。私たちは1号ファンドを始めた当初から、起業家個人による金銭的な保証は撤廃し、起業家がリスクを負いすぎず、大きな挑戦をできる投資契約を勧めてきました。本来、法人の存在意義とは、そのリスクを法人で受け止めること。それが日本のスタートアップエコシステムでは実現されていませんでした。だからデライト・ベンチャーズでは、単に起業家の個人保証を外すだけでなく、責任の所在に対する考え方も明確にしました。

渡辺:また、今までの日本の投資契約には「上場は“なる早”で。上場ができる状況なのに上場しない場合は、スタートアップが投資家から株を買い戻さなければならない」といった条項が含まれることが多かった。これは「大きなイノベーションを起こす」という、本来のスタートアップエコシステムの考え方に反しています。株式上場は企業を成長させる上での資金調達の手段の1つにすぎないのに、そのタイミングを事業戦略とは別の制約で決められるのはおかしい。私たちは、このようなスタートアップの大きな成長を阻害するような条項も投資契約から外しています。

ストックオプション(SO)に関しても、日本では発行の仕方が非常に特殊です。僕が2008年にシリコンバレーに行ったときには、今の日本と同じく「SOをもらえてもお金持ちになるのはすごくまれ」といった宝くじ的なイメージがありました。しかし今では、SOで大きな資産を得る人が身近に増えたため、「よいスタートアップを選び、SOを受け取ってがんばれば本当にお金持ちになれる」と理解され、SOが人材採用に大きな役割を果たしています。

優秀な人材が大企業から多数スタートアップエコシステムへ流入しようというときに、経済的に合理的でかつ実質的なメリットがあることは重要です。福利厚生がしっかりしていて安定している大企業を捨て、スタートアップに人材が大移動してくるためには、日本でもSOの設計は非常に大切です。

ですからデライト・ベンチャーズがリードする案件に関しては、SOの量が少なくなりすぎないよう、欧米、特に米国型のラウンド毎に適切な割合のSOを設定する仕組みをお勧めし、実行しています。

日本経済の起爆剤となるスタートアップエコシステムに貢献したい

南場:過去30年間、日本の大企業は残念ながら、世界の時価総額ランキングからどんどんこぼれ落ちて、イノベーションを生み出せていません。イノベーションを生み出すメカニズムとして、既存の大企業よりもスタートアップの方が優れているということは、世界が証明しています。日本の低迷した経済の起爆剤として、スタートアップエコシステムを本格化することはとても大切です。

私たちが、日本のスタートアップエコシステムに貢献するためには、やはりTeslaやNVIDIA、GAFAMのような、非連続な成長を実現する企業を生み出して、産業の新陳代謝を起こさなければいけない。伝統的な日本の会社に追いついて追い越す会社を、たくさん生み出していくことが一番だと思うんですよね。

南場:その貢献を私たちは、是が非でもやらなければいけない。スタートアップに挑戦する人もたくさん増えてほしい。スタートアップで失敗しても挑戦が尊ばれ、また次のチャンスが訪れる。そういう社会を築いていくためにビッグチャレンジにスポットライトを当て、そこから成功を生み出すファンドでありたいと考えています。

Profile

Profile:

●マネージングパートナー 南場智子
1986年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。1990年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立し、現在は代表取締役会長を務める。2015年より横浜DeNAベイスターズオーナー。2019年デライト・ベンチャーズ創業、マネージングパートナー就任。著書に「不格好経営」。

●マネージングパートナー 渡辺大
1999年京都大学文学部卒業、大手銀行を経て2000年株式会社ディー・エヌ・エー入社。国内での新規事業開発や営業・提携業務の後、2005年から海外事業責任者を担当。2006年DeNA北京総経理。2008年に渡米し、DeNA Global, President、DeNA Corp., VP of Strategy and Corp Devなど。日本発テック企業による海外進出の厳しさを思い知る。2019年にDeNAグループを退社し、デライト・ベンチャーズを立ち上げ。シリコンバレーと日本を行き来して日本発スタートアップの成長と海外進出をサポートしている。

●マネージングパートナー 浅子信太郎
南カリフォルニア大学 Leventhal School of Accounting卒業。アーサー・アンダーセンLLPにて監査・税務顧問業務を担当した後、KPMG LLPにて監査担当シニアマネージャーに就任。その後、米国でメディシノバ・インク副社長兼CFOなどを経て、2011年にM&AでDeNAの米国子会社になったngmoco(後にDeNA West)にCFOとして入社。2013年にCEOに就任し、Mobage統合事業本部Westリージョン事業本部長を兼任、その後DeNA本社の執行役員CFOを務めた。現在はセブンイレブン・インクやくら寿司USA・インク、株式会社ユーザベース等の社外取締役を務め、2022年5月よりデライト・ベンチャーズに参画。

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