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コラム

2023.6.28

日本のスタートアップが初期からグローバルを目指すべき理由とは?(前編)

Dai Watanabe
渡辺 大Dai Watanabe
Managing Partner
日本のスタートアップが初期からグローバルを目指すべき理由とは?(前編)

※本記事は2023年5月11日、DIAMOND SIGNALに掲載された寄稿記事に一部加筆・修正を加えたものです。

シリコンバレー在住で日米のスタートアップ環境に精通した、マネージングパートナー 渡辺大が、日本のスタートアップが世界で大きく勝つために必要な視点について論じる本記事。ベンチャー投資を行う世界の投資家の視点で見ると、成熟した日本市場のみを対象とするスタートアップは魅力に欠けると言われます。大きな成長を目指すためには、初期からグローバル市場を視野に入れることが重要。今回は、グローバル展開を目指すためにはどうすればよいか、事例を交えて前編・後編と2回にわたって語ります。

スタートアップが創業初期からグローバルを目指すべき理由

シリコンバレー最大のアクセラレーターであるY Combinatorに参加しているスタートアップは国際色に富んでいる。その割合はバッチによって異なるが、デモデーでプレゼンしている起業家の3割から半数近くが米国外の出身者であることが、その訛りからわかる。対象市場もアジア、ラテンアメリカ、アフリカなどが多く含まれる。〇〇 for Latin America や△△ for Africa(〇〇や△△は米国のユニコーンが多い)といったタイムマシーンモデルも目立つが、米国をマーケットとする米国のスタートアップの起業家にも移民は珍しくない。現に2021年時点の米国のユニコーンの、なんと55%が移民によって創業されたものだ。

フランスや韓国のスタートアップエコシステムに目を向けてみると、そのスタートアップの半数程度が国外を対象市場としているというデータもある。世界のスタートアップエコシステムは国を超えて相互乗り入れしているといえる。

シリコンバレーでは、日本出身のスタートアップの存在感はいまだ低く、他国に比べると日本出身のスタートアップのうち、海外展開を目指す会社の割合も小さいといえるだろう。これは、日本は国内市場が大きい(世界第3位の経済大国である)ことが1つの理由と考えられる。これが意味するところについて探りたい。

毎年新たに設立される会社の中で、VCから調達するスタートアップ(VC-backed)は1%未満。その特殊性は、求められる高い成長率にある。VCは投資対象に最低でも年率20〜30%の成長を期待する。

スタートアップがそのような成長率を継続するには、「巨大な市場」または「急成長している市場」を対象とする必要がある。米国と日本を除くほとんどの先進国は、自国市場の規模が充分大きくないため、スタートアップの多くが国外に展開することを前提にビジネスを行っている。そうじゃないと、高い成長を望めないからだ。

国内の多くのスタートアップがパイを狙う世界第3位の日本のGDPは、人口の大きさに依存しているといってよい。1人当たり購買力平価GDP(物価水準(インフレ率)を勘案したより実質的なGDP)は、先進国では下位グループだ(日本は人口で世界11位、1人当たり購買力平価GDPで世界39位)。そして、人口が1億人以上いる世界14カ国のうち、日本とロシアだけ、人口が長期的な減少傾向にある(ちなみに中国も人口が減り始めているが、それをはるかに超えるペースでGDPが伸びている)。

言いたいことはこうだ。日本のスタートアップにとって充分大きい国内市場は魅力だが、ベンチャー投資を行う世界の投資家の視点で見ると、成熟した日本市場は世界第3番目に競争力があるかというと、残念ながらそうはなっていない。国際的なスタートアップを生み出すフランスや韓国などの先進国や、億単位の人口を持ちながらも成長を続けるブラジルやインドネシアなど新興国のスタートアップエコシステムの方が、アップサイドの大きさという観点で魅力的なのだ。

そしてテックセクターの多くの分野で起こってきたことだが、日本のスタートアップが国外に進出してもしなくても、海外のVC-backedのテック企業は日本に進出してきている。国を超えた競争に、エコシステムとしてもスタートアップとしても巻き込まれるのは避けられない。

ほとんどの国のスタートアップエコシステムは、海外、特に米国のエコシステムとのつながりをもとに進化・成長してきたといってよい。米国での教育や起業を経て出戻りした自国の起業家や、海外からの投資家・起業家が、中国、韓国、フランスなど、各国のエコシステムの発展を引っ張ってきた。

グローバル展開のために必要なこと

日本のスタートアップが海外に展開する上で、重要なポイントがいくつかある。

1つは、スタートアップが早いタイミングから海外に目を向けるべきという点。「国内市場で上場してから海外を目指す」という順番は多難に満ちている、ということは以前の記事(『日本の“早すぎる上場”はスタートアップエコシステム全体にとっての損失──持つべき4つの視点』(前編))でも述べた。いったん上場すると、株主の優先度合いが短期的な業績に向きがちで、日本よりも規模の大きい海外へ、長期視点を持って事業投資をする、ということが難しくなるのだ。

海外に17年以上住んで感じているが、日本のサービスのUI、UXはかなりユニークだといっていい。これは多くの場合誇らしいことで、食や観光など、その文化が世界中の人を魅了している理由だ。ただし例えば日本のウェブやスマートフォンのプロダクトを海外展開するには、言語だけではないデザインの大部分を作り直す必要があることが多い(一方TwitterやSlackなど、米国のUI・UXはBtoB、BtoCにかかわらず日本へどんどん進出してくる)。ビジネスの文化も、新卒一括採用・終身雇用がユニークなことをはじめ、独特といっていい。

スタートアップのプロダクトや組織が、数年かけて日本の顧客、日本の従業員をターゲットにして成長した後で、海外に舵を切るのは想像以上に難しいことを、僕はディー・エヌ・エー(DeNA)で身をもって経験した。

本当に海外を目指すのであれば、「ある程度安定してから」と考えるのでなく、アーリーステージの時点から、共同創業者の選び方も組織の作り方も、海外市場に対する目線も、一定程度投資しておいた方がよい。

VCからの資金調達方法からビジネスモデルの検証方法、トラブルへの対処の仕方など、英語であればものすごい量の情報がウェブ上にあふれている。ChatGPTに質問しても、英語と日本語では回答の充実度合いに大きな差がある。日本とアメリカのスタートアップエコシステムを比べて最も歴然とした違いはスタートアップの数だ。ありとあらゆる分野で同じことをやってるスタートアップの数が10倍違う。資金に関しては何十倍も違う。

結果、日本で検討しうるビジネスモデルは、世界に先行例があり、それらの失敗や成功から学べるところも多い。スタートアップのアイデア出しから海外のスタートアップの動向を知っているのと知らないのとでは全然、考えないといけない戦略パターンの在庫の量が変わってくる。そういう意味でも海外の動向を最初から把握していくのは重要だと思う。

もう1つは、組織運営だ。日本は世界的にも若者が住みたい場所として常に上位に入る、とても魅力的な国だ。安全で便利で食が豊かで住みやすい。海外からやってきたエンジニアや、日本に住みたいと思うエンジニアは、思ったより多い。そういう人をどんどんチームに入れていくのは競争力の源泉になりえる。

<後編に続く>
日本のスタートアップが初期からグローバルを目指すべき理由とは?(後編)

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