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2024.4.18

「投資家との関係は点ではなく線で考える」米国西海岸で起業したファウンダーたちの資金調達事情

「投資家との関係は点ではなく線で考える」米国西海岸で起業したファウンダーたちの資金調達事情

在米日本人起業家3人×マネージングパートナー南場智子 オンラインイベント

日本から米国西海岸(ベイエリア)へ飛び込んだ起業家たちは、どのように現地の投資家とのつながりを深め、資金調達を行っているのでしょうか。デライト・ベンチャーズでは、彼らの米国での活動を日本の起業家たちにリアルに伝え、海外進出への参考となる情報を共有すべく、在米起業家3人を招き、マネージングパートナーの南場とともにオンラインイベントを開催しました。

ベイエリアはグローバルで価値あるプロダクトを生み出す起業家の主戦場

南場:今日は、シリコンバレーで奮闘している日本人起業家のなかでも、とりわけ私自身が刺激を受けている方々に来ていただきました。よろしくお願いします。

─まずは、なぜシリコンバレーで起業したのか、自己紹介も兼ねて聞かせてください。

小林清剛氏(以下、小林):小林と申します。皆さんからはよく「Kiyo(キヨ)」と呼ばれています。現在はAIを活用した採用分野にフォーカスしたスタートアップ・Noxx(ノックス)をやっています。

渡米前にはノボットという日本のスタートアップでモバイル広告ネットワークを手がけ、2011年にKDDIグループに売却しました。その2年後に渡米して、約10年になります。

シリコンバレーで起業したのは、今後グローバルで価値あるプロダクトを生み出す起業家の主戦場が米国、インド、中国といった人口の多い国になっていくと考えたからです。中でも米国西海岸は移民にとってフェアで、FacebookやTwitter(現X)といった世界中で使われるプロダクトの多くが生まれています。実際、ここへ来てやはり間違いなかったと思っています。

ただ、僕の渡米当時は日本人の創業者同士が助け合うコミュニティは、あまりありませんでした。そこで仲間たちと少しずつコミュニティを作り、今ではベイエリア全体で40〜60人、全米で60〜80人の起業家コミュニティができています。

(参考記事)「迷うくらいなら早く渡米して失敗した方がいい」シリコンバレーに飛び込んだ起業家たちの挑戦と助け合い
Noxx CEO 小林清剛氏
玉井和佐氏(以下、玉井):玉井と申します。株式と引き換えにスタートアップのデザイン、ブランディングなどの支援をするZypsy(ジプシー)というデザインスタジオをサンフランシスコで経営しています。

シリコンバレーには、自分が提供したデザインや価値が世界中に届く面白さがあります。僕たちは「One Billion delta(10億ドルの価値の変化を生み出す)」というミッションを掲げ、デザインチームとしてAndreessen Horrowitz、Sequoia Capital、Felicisの投資先をはじめとする25社とともにBrandやProduct作りを行っています。
Zypsy CEO 玉井和佐氏
大東(だいとう)樹生氏(以下、大東):はじめまして、DeStoreの大東と申します。「Datz(ダッツ)」と呼ばれています。私は今、Orange DAOや米国のエンジェル投資家から出資を受け、端的にいえば古着屋なんですが、独自開発のブロックチェーンを活用したメンバーシップを持つ顧客が店に“参加”できるという、次世代の体験を提供する店舗をサンフランシスコで作っています。

シリコンバレーで起業したきっかけは、高校を卒業する頃に読んだKiyoさんや和佐さんら、先輩方の記事やブログです。やるからには一番大きなエコシステムでやりたいと考え、5年ほど前、高校を出てすぐに渡米しました。
DeStore CEO 大東樹生氏

資金調達はモメンタムが大事、人の役に立つことが実力の証明に

─シリコンバレーでの資金調達について、ご自身や周囲の方で印象的だった例など、お話しいただければと思います。

玉井:僕の場合、一昨年ぐらいに初めて日本以外の投資家から約4.5億円を調達しました。

調達活動開始当時はバブルマーケットで、トップティアのVCの人から声がかかり連絡したところ、数回目のオンライン面談で「リード投資家としてオファーしたい」とタームシート(契約書の主要な条件に関してまとめた文書)をもらえたんです。そうなるとほかの投資家からも資金が集まり、300万ドルぐらいがすぐに埋まりました。

しかし、ラウンドのクローズ直前にマーケットが一気に崩れました。全ての投資契約書にサインをして後は入金だけというときに、そのリード投資家から連絡があり、いきなり「すまないが投資できなくなった」と言われたんです。

結局、その投資家には当初の4分の1の額を入れてもらうことになったのですが、リードではなくなり、もう一度ほかの投資家からも資金調達し直すことになりました。

南場:契約書にサインして法的効力はあったのに、ということですか。やっぱり入金までは怖いよね。

玉井:米国ではそういうところも結構ありますね。ただ、今はその投資家がクライアントをたくさん引っ張ってくるなど、すごく助けてくれています。

こちらのストラテジック(戦略的)な投資家は、ラウンドのコーディネートもします。「キャップテーブル(※)に入れた方がいい」と100人ぐらいのエンジェル投資家のリストが送られてきて、こちらが選んだ投資家を3日間ぐらいで紹介してくれるんです。今までは「キャップテーブルをデザインする」なんて考えたこともありませんでしたが、そういう考え方も学べました。

※キャップテーブル(資本政策表):英語のCapitalization tableの略で直訳すると「資本構成表」となり、出資者の持ち株比率や株式の種類などの情報が含まれる。事業計画を達成するための資本政策(資金調達や株主構成に関するプラン)を表しており、ここでは株主構成のプランの意味で使われている。

小林:こちらで資金調達をするにあたって、僕は1日5〜8件、1カ月半で150件ほどの投資家候補にコールをしたことがあります。実際はいくつも断られてはいるんですが、それでもこれなら毎日「今、検討中の投資家が20件います」と言えます。すると、すごいモメンタム(投資への勢い)が生まれます。資金調達ではモメンタムを作ること、一気に集中してやることが大事です。

また、いいエンジェルには、30万〜70万円といった少額でも入れてもらうことが大切です。特に著名なVCの元パートナーが投資に入って、そこからほかのVCを紹介してもらうと、トップティアのVCでもパートナーを紹介してくれて、丁寧に扱ってもらえます。

大東:個人的には、調達においては現地の起業家とのネットワークから始めて、わらしべ長者のようにエンジェル投資家たちとつながり、最終的に狙う投資家にたどり着くという方法が再現性のあるやり方ではないかと思っています。

私はKiyoさんのような日本人の先輩を通じて、まずは自分が何らかの価値を提供できる起業家を探すところから始め、彼らに日本の投資家を紹介し、逆に彼らから株主のエンジェルを紹介してもらいました。誰か1人、投資が決まると、そのエンジェルが今度は別のエンジェルを連れてきて、さらにそのエンジェルがまた別のエンジェルを連れてきてくれる。そんなことが何度かあって、Orange DAOのパートナーを紹介してもらうことができました。

小林:彼らが探している投資先を紹介したり、彼らの投資先の力になったりすることは、僕たち自身の能力やチームとしての実力の証明にもなるので、大切なことだと思っています。

スタートからの進捗を可視化できる起業家は喜ばれる

─これから日本から飛び出すぞという起業家に、資金調達のための投資家とのつながり方でオススメのパターンを教えてください。

玉井:我々のようなアーリーステージの起業家はアクセラレータープログラムに入って、そこできちんとサービスを伸ばしていれば、投資家側から声をかけてくるケースが結構あります。

ほかにはDatzやKiyoさんも言っていたように、人の役に立つ「型」を持っておくこと。例えば僕たちはよくワークショップに入って、VCが支援する別の起業家の事業開発に役立つことを行っています。

また、投資家は「プロダクトベロシティ(進捗)」を見たがっています。起業家がどういうスピードでプロダクトをアップデートし成長してきたか、その進化を点でなく線で見たいのです。アップデートを報告して、スタートからの進捗を可視化できる起業家は喜ばれます。僕はニュースレターを投資家だけではなく、自分たちが会った人、将来的に巻き込みたい人たちに四半期ごとに出して、進捗を伝えています。

小林:資金調達がうまくいくかどうかは、準備期間の長さと、そのときの行動によります。先ほど150件の投資家にコールした話をしましたが、そのうちの140件は紹介です。その紹介をもらうために、1年ぐらい前から準備をしていました。その意味で、ハッカソンやフェローシップ(奨励金)プログラム、コワーキングスペース、コミュニティなどに参加してネットワーキングすることは、プレシードやシードラウンドではとても重要です。

その後は、YCやAlchemist、Neoといった有名なシードアクセラレーターへ参加して、デモデイで投資家に見てもらい、さらに投資してもらう。そうした流れが一般的な資金調達のプロセスかと思います。

投資家との関係は点ではなく線で考えるべき

─オーディエンスとして参加していただいている、海外での起業に関心がある皆さんからの質問も受けたいと思います。先ほどのキャップテーブルをデザインするという話について、もう少し詳しく伺いたいという質問がありますが、いかがですか?

玉井:投資家は3つぐらいのカテゴリーに分けられます。1つは「バリューアド(付加価値)インベスター」。顧客を紹介してくれたり、採用やマーケティングを手伝ってくれたり、実際に価値を提供する投資家です。

2つ目は「シグナルインベスター」と呼ぶ著名な投資家で、彼らが出資することでそのスタートアップに「ほかのVCからの投資が集まりやすくなる」という特徴があります。例えば、Sequoia CapitalがSeries A以降でリードを取ったスタートアップは約6割がイグジットするといわれているので、ほかの投資家からのお金も集まりやすくなります。

3つ目が、長期的に支援してくれる投資家。シード以降のラウンドでもリードしてくれる投資家です。Lightspeed Venture Partnersのように、歴史があってファンドサイズがある程度あり、継続的にポートフォリオを支援してくれるところが挙げられます。

成功確率を上げるためには、これらのカテゴリーの中から投資家を選んでキャップテーブルをデザインする意識が大事です。ベイエリアの起業家は、いい事業を作って投資家を選べるようになると、そういう交渉をする傾向にあります。

小林:インベスターのシグナリングには、ネガティブな面もあるので注意が必要です。少額で入ったトップティアVCが次のラウンドでフォロー投資をしないと、マイナスのシグナルとなることもあります。トップティアVCにはリードを取ってもらうか、大きな金額を出してもらうことが大事です。

─信頼できそうな投資家はどのように判断するのでしょうか。

小林:基本はリファレンスチェックです。紹介してくれた人や投資先の起業家に聞く方法もあります。

玉井:YCなど、起業家側から投資家を選べる仕組みとして、投資家のデータベースを持っているアクセラレーターもあります。

大東:1つ注意した方がいいのは、誰か1人か2人の評価で投資家を判断しないこと。伸びている起業家にはVC側も好意的なので「あの投資家は最高だった」という感想になりますし、逆だと投資家との関係に問題が発生することもあります。

─「法人の登記先はデラウェア州ですか」という質問もいただきました。

小林:基本的にデラウェア州です。米国の8〜9割のスタートアップがデラウェア州で登記していて、訴訟の判例が一番たまっているので、投資家がデラウェア州法人でないと投資をひるむケースが多いんです。

そのほか、米国でスタートアップをするための情報をサイト(SFでスタートアップをする方法)にまとめていますので、参考にしてもらえればと思います。

─継続的に資金調達するなら、どのステージまでに米国で投資家を獲得した方がいいでしょうか。

玉井:早ければ早いほど、いいと思います。投資家がスタートアップを見るフレームワークの中に「カスタマーベースがどこにあるか」というポイントがあります。彼らは、米国のクライアントがいるところで価値を出せます。だからできるだけ早い段階で米国に来て、こちらでチームを作り、クライアントを作るのが王道です。

小林:日本のカスタマーやユーザーに合わせていると、米国に来たときにもう一度プロダクトマーケットフィットをやり直さなければならないケースが多いので、なるべく早く渡米した方がいいと思います。また人間関係を作るのにも、最低でも1年は見ておいた方がいいと思います。

─投資家とのコミュニケーションで気をつけていることがあれば教えてください。

玉井:投資家がどの領域に注目しているかをVCのサイトで調べて、SNSで関係を作ることや、コネクションづくりを考えることは大切です。BizDev(事業開発)のリレーションシップ構築と同じように、リーチできるコネクションを探るところからスタートするといいのではないでしょうか。

また、投資家と話をするときには一発勝負で考えないこと。彼らはとにかく線で見ています。だから、きちんとソーシャルでつながってエンゲージしていくことや、進捗を見てもらえる機会を作っておくこと、断られたとしても将来的にその人に仲間になってもらいたいという感覚で人間関係を育むことは大事です。

─米国の調達環境と日本の調達環境とでは、同じトラクションでも得られる資金が違うという話を聞いたことがありますが、実際のところどうなんでしょうか。

大東:プレシード、シードではキャップの相場自体が米国の方が高いので、集まる金額は米国の方が大きいと思います。ただ、コネクションがない日本人が米国で調達するなら、プラスアルファの努力やトラクションが必要なのではないかという印象があります。

小林:日本は創業者に投資をするカルチャーが強いですし、VCの数も多く、日本の投資家は世界で一番フレンドリーなのではないかと思います。日本人の起業家は日本人の投資家を集める方が圧倒的にやりやすいと感じます。

南場:日本ではエンジェル投資家の少なさがネックになりませんか。米国のエンジェル投資家はトラクションが見える前でも、誰かの紹介だと気軽に「ちょっと一口」という感じで入れてくれる人がわりと多いように思います。

小林:確かに日本ではエンジェル投資家は少ないですよね。ただ、米国のエンジェル投資家も人間関係のつながりがあったり、何か理由がないと投資してくれないケースが多いです。

南場:日本ではアーリーステージのVCは多いけれど、レイターステージと、超アーリーのエンジェル投資家が少ないですね。日本でもエンジェル投資の文化を巻き起こさなければいけませんね。

今日は具体的な話が聞けてありがたかったです。早くから世界を目指す方がいいという話でしたけれど、途中から世界を目指して米国にいくやり方もあるので、デライト・ベンチャーズではそういう方も全力でサポートしたいと思います。パネリストの皆さん、今日は本当にありがとうございました。
 デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 南場智子

Profile:

●小林清剛氏
シリアルアントレプレナー。2009年に設立したノボットを国内2番手のモバイル広告ネットワークに成長させた後、2011年にKDDIグループに売却。2013年より渡米し、現在はAI採用のスタートアップNoxxを手がける。またTokyoFoundersFundのパートナーとして、米国を中心に約40件の企業に投資する。
https://www.noxx.xyz/

●Zypsy 玉井和佐氏
スタートアップ向けにデザインやブランディングサービスを提供するデザインスタジオ「Zypsy」の共同創業者・CEO。2018年に同社を創業、シリコンバレーで事業展開するとともに、Sequoia Capital、Andreessen Horowitzといったベンチャーキャピタルのアーリーステージの投資先支援を手掛ける。
https://www.zypsy.com/

●DeStore 大東樹生氏
小売店向けに、ブロックチェーンを使った参加型のあたらしいロイヤリティシステムを展開する「DeStore」を創業。YC卒業生DAO 「Orange DAO」などから出資を受け、サンフランシスコにて開発。
https://desto.re/


●デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 南場智子
1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを設立し、現在は代表取締役会長を務める。2015年より横浜DeNAベイスターズオーナー。2019年デライト・ベンチャーズ創業、マネージングパートナー就任。著書に「不格好経営」。

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