2026.10.28
東南アジアから世界へ、MBOで独立したCUSTAが挑むカスタマイズ産業の変革

CUSTA 高城雄大 氏 × デライト・ベンチャーズ 西田光佑
Tシャツ、マグカップ、トートバッグ……「CUSTA(カスタ)」は、企業のイベントや個人の誕生日会で使うオリジナルのカスタマイズ製品を、誰でも簡単に制作・発注できるグローバルプラットフォームです。マレーシアを拠点とする同社は、もともとラクスルの現地子会社として事業をスタート。2026年3月、デライト・ベンチャーズとグローバル・ブレインを共同リード投資家とするプレシリーズAラウンドで、融資を含め総額6.5億円を調達し、同時にラクスルからのマネジメント・バイアウト(MBO ※)も実施しました。
ラクスルではCOOを務めていたCUSTA代表の高城雄大氏と、デライト・ベンチャーズ パートナーの西田光佑が、創業の背景から、ラクスルからのカーブアウトの舞台裏、多民族チームを率いる経営の試行錯誤までを語ります。
※経営陣が自社株や事業を買い受けて筆頭株主となり、経営の主導権を掌握する手法
日本で見た産業のデジタル化を、今度は世界で
──ラクスルでCOOまで務めた後、起業を決めたきっかけを教えてください。
高城雄大氏(以下、高城):学生時代から自分で事業をしていたこともあり、いつかは起業しようと思っていました。そこでまずはしっかりした会社で経験を積もうと就職をし、2015年には、まだ成長途上にあったラクスルに参画しました。そこで中核事業をリードする機会をもらい、M&Aや海外事業も経験。そのなかで、スケールする挑戦を自分の手でやりたいと思うようになった。それが原体験です。
私の事業運営の軸は「社会に長く残るものを1つでも多く残すこと」です。次の10年、20年を考えたとき、日本人が海外で挑戦できる姿を次の世代に見せられたら、「自分が楽しいから起業する」以上の意味があると思いました。そこで、どこで事業をやるのかを見極めるため、2カ月ほどバックパックの旅に出ました。東南アジアはほぼすべて電車やバスで回り、そこから中央アジア、ヨーロッパと、ユーラシア大陸を東から西まで見て回りました。
これから事業を大きくできる国はどこか。グローバルなチームをつくれる環境があるか。そういう目で見ていくと、東南アジアのなかでも、経済のフェーズと多国籍企業の集積がそろったマレーシアとシンガポールが際立っていると肌で感じることができました。
──AIがこれだけ注目される時代に、なぜカスタマイズ産業なのでしょうか。
高城:AIがどれだけ進化しても、人に最後まで残るのはリアルな接点だと思っています。人と人、企業同士が関係性をつくり、深めていく活動はなくなりません。であれば、体験や空間を特別にするもの、つまりカスタマイズの価値は、AIが進化するほど、むしろ高まるはず。「個別の、特別なものをつくる」という古くからある産業は、AI時代にこそ価値を増す。これが事業の前提にある私の仮説です。
西田光佑(以下、西田):AIに注目が集まる時代だからこそ、私はリアルな産業に残る大きな課題に関心を持っていました。テクノロジーの進化が届ききっていない領域にこそ、大きな事業が生まれる余地がある。そう考えていたときに高城さんから聞いた話は、一言で言えば「ラクスルが日本で試行錯誤したことを東南アジアでどう展開するか」という再現性の高いもので、AIとはまったく別の軸で「この人はすごい」と思いました。
「価格も納期も分からない」をなくすプラットフォーム
──CUSTAが解決する課題を、エンドユーザーと生産者それぞれの立場から教えてください。
高城:カスタマイズ製品は、お客さまが「これを作りたい」と思ってから準備して生産する、受注生産品です。ところが、例えばTシャツを作りたい、となっても、生地の種類や加工方法、縫製の仕方といった、発注に必要な専門知識は膨大にある。一方でお客さまはその知識を持っていないケースが多い。10社に見積もりを頼むと10通りの仕様で回答が返ってくる。イベントなどの決まったタイミングに間に合うかどうかが一番大事な情報なのに、仕様を決め切るまで価格も納期も分からないんです。この圧倒的な不透明さが、エンドユーザー側の最大の課題です。
生産者側の課題はもっと根深い。どの国でも、この産業の9割以上は中小企業で成り立ち、従業員10〜20人、機械も2台ほどという家族経営が中心です。刺繍の会社なら刺繍しかできないため、ほかの加工は別の加工会社が必要になります。ところがお客さまは、検索で見つけた会社に片っ端から問い合わせます。その結果、9割ぐらいの生産者は、得意でない領域の業務に対する見積もりを作り続けることになります。需要が集約・標準化されておらず、雑多な案件に対応するので受注率は低い。注文数を予測できないので、人員配置も設備投資も計画できません。
CUSTAは需要を1カ所に集め、各生産者に一番得意な仕事を、同じ規格で流し続ける仕組みを提供します。受注生産の産業を計画生産化しよう、というのがサプライサイドへの提供価値です。
──拠点にマレーシアを選んだ理由は何ですか。
高城:理由は3つあります。1つ目は、マレーシアが現在活発な経済発展のなかにあり、ポテンシャルの高い経済フェーズにあることです。世帯の約8割が車を持つほど購買力があり、企業もマーケティングに投資し始めています。2つ目は、多国籍企業が集まっていて、英語で多国籍の事業を回せる人材を採用しやすいこと。3つ目は、マレー系、中華系、インド系など多様な民族が暮らし、得意な言語もそれぞれ違うことです。この地で選ばれるプロダクトになれば、ほかの文化圏でも受け入れられるはずです。
現在はアパレル製品のカスタマイズが中心で、企業の周年イベントのユニフォームから、個人の誕生日会でおそろいで着るシャツまで、幅広く使われています。そこからマグカップやトートバッグ、壁掛け用の旗飾りのような大型の印刷物や加工品にも広がってきています。
ラクスルで得た確信と、子会社では取れなかったリスク
──ラクスルでの経験のうち、CUSTAで最も生きているものは何ですか。
高城:日本という1つの国で、このカスタマイズ産業のデジタル化を当事者として経験したことです。しかも、世の中の生産機械の6〜7割は日本メーカー製で、規格も作り方も世界でほぼ共通です。デジタル化で起きることは、ある程度どの国でも同じだろうと考えました。国ごとにラクスルをつくる必要はない、世界のラクスルをつくればいい。それが最初の構想です。
ラクスル時代に海外事業も管掌し、欧米の同業大手の経営者たちと話すなかで、この領域の課題が世界共通だと確信できたことも大きいですね。
──ラクスルの中で続けるのではなく、カーブアウトを選んだのはなぜですか。
高城: CUSTAは、私がラクスルで国内の中核事業を管掌したのちに、自身で立ち上げた事業で、それを切り出すかたちで始めています。ただ、子会社である以上、親会社の財務や予算からくる影響は避けられません。私は国内事業に6〜7年携わっていたので、「(本業から遠い)海外事業でこのリスクは取れないな」と察してしまう。役員会での反応も読めてしまうんです。やんちゃしたいのに、親に怒られない範囲でやんちゃする、かわいい不良みたいになっていました(笑)。
当時のラクスルは、売上高1,000億円への道が見えていました。その規模の会社にとって、数十億円規模の海外事業はポートフォリオとしての意味が小さい。海外で大きくリスクを取って成長を目指すには、その制約を解き放つ必要があったんです。
「今、お金を出したらどうなりますか」異例のスピードで決まった投資
──2人の出会いとお互いの第一印象を教えてください。
西田:2025年9月に、起業家の紹介で、Zoomで高城さんのピッチを聞いたのが最初です。当時は1年後の資金調達を見据え、「これ、お金集まると思いますか」という感じの相談でしたが、ピッチは完璧で「すごいな」と。その後、高城さんが帰省するタイミングに、梅田のカフェでお会いしました。生い立ちを聞くと、小学生の頃から家の仕事を手伝ってお金を稼いでいたそうでロジカルなだけでなく、人間的な強さ、生きる力を持った人だという印象が深まりました。
高城:MBOを前提としていたので、当時お会いした投資家の多くは、ピッチをしても「条件が見えてきたらまた来てください」と距離がありました。初対面で、大企業の子会社で、しかも市場は海外。取りつきやすい話でなかったのは確かです。そんななか、西田さんは親身に話を聞いてくれました。初期の1、2回の面談の段階で、DeNA時代に海外事業を管掌していたデライト・ベンチャーズのマネージングパートナー、渡辺大さんや浅子信太郎さんにもつないでくれました。ここまで事業経営への解像度が高く、プロアクティブに動いてくれたVCは、ほかにありませんでした。
──投資決定のスピードも異例だったそうですね。
西田:対面で初めて会った梅田のカフェで、「今、お金を出すと言ったらどうなりますか」と聞いたんです。1年後に調達を始めたら、きっと投資家が殺到して交渉条件も難しくなる。それなら今だと、キャピタリストの血が騒いだというか、これは逃しちゃいけないと思いました。面談の回数は多くありませんでしたが、それまでの対話で確信は十分に持てていました。
高城:私たちとしては、ラクスルから確保した資金で1年ほどかけて投資家を選ぼうと準備をしていたので、その一言でプランが一旦瓦解しました(笑)。でもその時に、資金が集まるなら社内も説得できるのではないかと、イメージが湧きました。カーブアウトは、誰かがリスクを取って「投資する」と手を挙げない限り、前に進みません。デライト・ベンチャーズがどこよりも早く手を挙げてくれたから、今回このタイミングでのカーブアウトが成立したんです。
西田:カーブアウトが簡単でないことは分かっていましたが、それ以上に、素晴らしい起業家と面白い事業、そして面白い市場が揃っていた。この3つが揃っていれば、難しさは一緒に乗り越えられると考えていました。
借り物の言葉では会社の存在理由は語れない
──創業前後で苦しかった局面と、どう乗り越えたかを教えてください。
高城: 1つはカーブアウトそのものです。足掛け1年半から2年、ラクスルに残るべきか、独立してリスクとともにさらなる非連続成長を目指す道を選ぶべきかを天秤にかけ続けました。その間も事業は進むので、日々の意思決定で、どこまでなら取っていいリスクなのかを見極めなければなりません。瞬間的にしんどい時があったというより、重いテーマから逃げずに悶々と向き合い続けた期間でしたが、そのぶん思考はシャープになりました。最後は、事業とお客さまにとって何が最適かで決めました。
もう1つはチームづくりです。当初から5〜6の民族が混ざるチームで、スタートアップ文化もまださほど根付いていない国です。いきなり強いモードでマネジメントに入ると、人はすぐ辞めてしまいます。逆に甘くしすぎて失敗したこともあります。今でも「やらかしたな」と眠れなくなる夜はありますね。
ただ、目に見える問題は、大きくても、言語化できた時点で世の中に解決策があります。偉大な先輩に聞きに行けばいい。自分の培ってきた経験値も使えば、おおよその解決方法は思い浮かびます。難しいのは短期では解決し得ない、抽象的なテーマです。これは苦しいですが、自分がその意思決定をする器になるまで、安易に決めずに抱えておくことも必要だと思っています。
──振り返って「こうすればよかった」と思うことはありますか。
高城: スタートアップに限らず、海外で事業をすると、「日本人らしくやってはいけない。グローバルのやり方を目指さないと」と考えがちです。私も最初の1年ほどは、アメリカの有名VCや著名スタートアップの型を頼りに経営していました。型があると楽なんです。「日本でしか事業をしてこなかったのに、なぜグローバル企業をつくれると思うのか」と実際に言われることもあって、つい外の権威を借りたくなりました。
でも、そこから会社の文化、歴史になるような知見は生まれませんでした。8割は世の中の型を使っていい。けれど、「自分たちは何者か」に答える残りの2割を外から借りてきた言葉で語ると、CUSTAがなぜCUSTAなのかを語れなくなります。従業員も、僕の話よりアメリカのニュースを見ていればいいことになってしまう。
マレーシアからカスタマイズ事業を始めた時点で、すでに私たちはユニークな存在なんです。自分の原体験から出てくる言葉を、ほかの言葉に翻訳しなくていい。そのことに気づくのには時間がかかりました。
投資前から始まっていた伴走
──デライト・ベンチャーズとの関わりで、印象に残っている助言はありますか。
高城:出資前後に「キャッシュアウトが多いよね」と指摘されたときは、ドキッとしました。大企業の新規事業なら、予算内で管理していれば問題にはなりません。でもスタートアップとしては、Day1から思考を切り替えなければならない。分かってはいたことですが、あえて言ってもらえたことで仕切り直せました。事業運営に関する経験と知見の豊富なVCだからこそのコメントだと思います。
また、投資の実行前から、カーブアウトや海外展開を経験した起業家や、上場企業の経営者を紹介してもらい、壁打ちもさせてもらいました。上場市場をどこにするか、法人をシンガポールと日本のどちらに置くかといった、自分では考えていなかった論点も投げかけてもらい、MBOにあたっては、ラクスルへの説得にも入ってくれました。支援の厚さがまるで違います。
──投資後はどのようなやり取りをしていますか。
西田:2週間に1回ほど、オンラインで話しています。ラクスルがフィンテック領域に事業を広げているのを見て、「東南アジアでも決済手段の拡充などを考えてはどうか」といった話はフラットにしていますね。
高城:BtoBプラットフォームは、最終的に金融などの領域を取り込んで進化していきます。まとまった時間をとって考えようと思っていたテーマについて、西田さんが先回りして情報を集めてくれる。自分はロジカルに考えすぎるタイプなので、感性とロジックが混ざった「斜め上」を目指す提案は刺激になります。
──西田さんから見た高城さんの強みは何でしょうか。
西田:ロジカルなだけでなく、人を巻き込んで泥臭く事業を進められることです。マレーシアの大手印刷会社との提携の話は象徴的でした。
高城:1年半ほどコンタクトを続けても、ずっと無視されていた会社でした。いよいよその生産能力が必要になったとき、株主を調べ上げると、香港系の親会社があることが分かりました。すぐ香港に飛んで、食事をしながら構想を話したら、「やるか」と鶴の一声で決定。最後は1カ月ほどで、国をまたいだ提携をまとめることができました。ロジックで解けることは誰かが解いてしまう。だから僕は、手数やヒューマンタッチも大事にしています。マレーシアでも製造会社の社長は年配の方が多く、最初はインターンか学生だと思われたこともあります(笑)。
日本発のプラットフォームを世界のインフラに
──今後の展望を教えてください。
高城:インドネシアとベトナムの調査を始めていて、来年中にはどこかに展開できればと考えています。すでに6カ国ほどに輸出していて、アメリカやイギリス、オーストラリアからの注文もあります。生産側でいえば、例えばベトナムはコットンに強い。各国で築いたサプライチェーンを、世界中の人がシェアできるようにしたいと思っています。
中長期では、日本発のリアルな生活に密接に結びついた取引を支えるプラットフォームを、海外で生み出したいと考えています。いま、私たちの生活はほぼ外資系のサービスに支えられています。日本で成功したサービスも海外に持っていけていません。前述したように、カスタマイズ産業の領域では生産機械の多くが日系メーカー製で、標準化のナレッジも日本で培ってきました。そして市場は世界で約90兆円ある。このテーマでつくれなかったら、どこでつくるんだろうと思っています。カスタマイズにとどまらず、BtoBの困りごとを広く解決する存在にしていきたいです。
──どんな仲間を求めていますか。
高城: 今、日本でエンジニアの組織をつくっているところです。世界で使われるプロダクトをつくりたいと思える人に来てほしいですね。ECとものづくりが密接に絡む事業なので、システムづくりには面倒な部分もあります。でも、その複雑なパズルを解くことに喜びを感じられる人なら、うちはすごく面白いはずです。
──最後に、これから起業する人やアーリーステージの起業家にメッセージをお願いします。
高城: AIで起業のハードルは下がり、若い人の挑戦が増えているのはとてもいいことです。そのうえで、社会人を1、2周して脂の乗った同世代の起業家には、外を見続けて、世の中に残るインフラをつくろうと言いたいです。分かりやすくうまくいく事業ではなく、人類がまだ解けていない複雑な課題に向き合う日本人が増えれば、ユニコーンが次々に生まれる世界につながるはず。情報交換もしながら、一緒に頑張っていきたいですね。

Profile:
●CUSTA 代表取締役CEO 高城雄大氏
横浜国立大学経済学部を卒業後、NTTコミュニケーションズ、PwCに勤務。インドでの事業開発や、アジア各国にまたがるITインフラ構築、サプライチェーン改善のプロジェクトに携わる。2015年、ラクスルに入社。経営企画やプロダクト開発、新規事業開発を経て、執行役員としてラクスル事業本部COO、Chief Growth Officer、VP of Asia-Pacificを歴任。グループ会社のダンボールワン、ネットスクウェアの取締役も務めた。2023年にマレーシアでCUSTAを立ち上げ、2026年にラクスルからのMBOを経て独立。
https://custa.com/
●デライト・ベンチャーズ パートナー 西田光佑
三井住友銀行に入行し、富裕層向けウェルスマネジメント業務を担当。2017年よりSMBCベンチャーキャピタル、伊藤忠テクノロジーベンチャーズにて一貫してベンチャー投資およびハンズオン支援に携わる。2022年デライト・ベンチャーズに参画。現在は拠点を大阪へ移し、関西発スタートアップの創出に尽力。投資先であるABABAでは社外取締役を務め、経営における議論のパートナーとして関与。MBA(経営学修士)。
https://note.com/ni1223






